日本のスポーツ車 1960〜1990



第39回  スズキ フロンテクーペGX
(LC10W型)1971年9月


最高速度=120km/h 0→200m=11.41秒 0→400m=19.47秒
(カタログ値)



2スト37PS搭載の軽初本格的2シータークーペ。

 世界でもっともコンパクトなスポーツクーペが.鈴木自動車が送り出したフロンテクーペだ。
70年10月、スズキは好評のフロンテをモデルチェンジし、リアエンジン/リアドライブとしては2代目になるステイングレイ・ルックのフロンテ71を発売した。
同じ時期、ホンダはライバルに先駆けてスペシャルティ・ミニのホンダZを世に放っている。
 このホンダ・Zから遅れること1年、スズキは満を待してフロンテクーペを発表した。
ベースとなったのは水冷エンジンを積むフロンテ71Wだが、スタイリングはまったく異なる新デザインだ。
これがフロンテクーペの最大のアピールポイントであり、大きな魅力となっている。
低いノーズに角型ヘッドライトを組み合わせ、フロントピラーやリアピラーも傾斜が強い。
とても全長3000mm、全幅1300mmの360cc軽自動車とは思えないはど、スタイリッシュかつスポーティなルックスは、わずか1200mmという全高が大きく貢献している。
また、細部のデザインも凝っていた。
ベルトラインは美しいコークボトル・ラインになっており、それがリアクォーターウインドーを経てルーフへとつながる。
リアエンドも大胆にカットされ、そこにタテ長のリアコンビネーションランプを組み込んだ。
また、リアクォーターピラーのベンチレーションルーバーやエンジン用のエアインテークも、スタイリングを引き締める大きな要素となった。
 スタイリングを手掛けたのは、軽ワンボックスのキャリィをデザインしたジョルジェット・ジウジアーロだと言われている。
が、レンダ・リング段階では1.5ボックスのワゴンとしてデザインされ、生産モデルとの共通点は見出せない。
これをスズキの若手デザイナー達がリファインしてスポーツクーペに仕立てた、というのが真相だろう。
 デビュー時点では2シーターモデルだけが発表された。
シート後方にわずかなスペースがあるが、これはラゲッジスペースだ。
キャッチフレーズも”ふたりだけのクーペ”と、スポーツカー感覚を謳っている。
2+2モデルが投入されたのは半年後の72年3月のことだ。
エマーシェンシー用のリアシートだったが、発売されるや人気が集中し、2シーターモデルは生産が打ち切られた。
 インテリアも軽自動車離れした斬新なレイアウトである。
フルスケール1万回転のタコメーターと140km/hのスピードメーターを中心に、燃料計、水温計、アンメーター、時計の6連メーターを誇示した。
ステアリングもウッド調のスポーティな3本スポークを奢っている。シートもバケットタイプのスポーツシートだ。
 パワーユニットもフロンテクーペのセールスポイントのひとつである。
リアにはフロンテ71Wに積まれている軽快なLC10W型水冷2サイクル3気筒エンジンを搭載した。
ボア52.0mm、ストローク56.0mmのロングストロークだが、吸気系にリードバルフを採用し、騒音とパワーロスを最小に抑えるためにデュアル・ラジエターを採用している。
 性能的にも群を抜く。わずか356ccの排気量ながら、3連キャブを装着して最高出力37PS/6500rpm、最大トルク4.2kg/4500rpmを発中する。
これにクロスレシオの4速ミッションを組み合わせ、ゼロヨン加速19.47秒を叩き出した。
最高連は120km/hとされていたが、フルスロットルを与えれば130km/hを軽々とマークするだけの実力を秘めている。
 サスペンションは前ダブルウィッシュボーン/コイル、後トレーリングアーム/コイルの4輪独立懸架だ。
ハードに固めらえたサスペンションと39.5対60.4の前後重量配分によってRR方式ならではの小気味よいハンドリングとコーナリングを披露した。
フロンテクーペは、押し寄せる排ガス規制に飲まれ、一時的に姿を消すが、77年にセルボの名で復活する。
これは、そのスタイリングがいかに素晴らしかったかの証明と言えるだろう。



2010mmのホイールベースに軽では最も低い1200mmの全高を持つスタイリッシュクーペ。写真は2シーターだが、後でデビューした2+2でもホイールベースはいっしょだった。
デビュー時はGX/GE/GERの3グレードがあり、GERはラジアルタイヤを装着していた(写真はGX)
リアに横置きマウントされる水冷直3・2ストロークエンジン。
リードバルブの採用と脈動効果により、幅広い回転域で高いトルクを保っていた。
GXはフォグランプとサイドストライプが標準装備されていた。
スポーティな6連メーター。夕コメーターは8000rpmからイエローゾーンとなり、アンメーター(電流計)も用意される。上下に57mmの調整可能なチルトステアリングも標準装備されていた。


主要諸元 フロンテクーペGX
 エンジン 
   種類/型式
   ボアxストローク
   総排気量
   圧縮比
   最高出力
   最大トルク
   燃料供給装置
   燃料タンク容量
 トランスミッション
   型式
   変速比 1/2/3
         4/5/R
   最終減速比
 シャシ
   ステアリング
   サスペンション    前
               後
   ブレーキ       前
               後
   タイヤ
 ディメンション&ウェイト
   全長x全幅x全高
   ホイールベース
   トレッド     前/後
   最低地上高
   室内長x幅x高
   車両重量
   乗車定員
 車両価格(当時)
        45.5万円

2ストローク3気筒/LC10W
52.0x56.0mm
356cc
7.2
37ps/6500rpm
4.2kgm 4500prm
キャブx2
27リットル

4MT
3.182/1.875/1.268
0.800/−.−−/2.727
−−

ラック&ピニオン
ウイッシュボーン/コイル
トレーリング/コイル
2Lドラム
LTドラム


2229x1295x1200mm
2010mm
1120/1100mm
160mm
895x1100x1035mm
480kg
2名


●バリエーション
1972年2月 フロンテクーペ2+2
4人乗りセダンタイプと2人乗りクーペタイプの中間に位置する”2+2”のGXF(37PS)が2月20日に発売され、続いて3月10日からは34PS仕様のGXPFが追加された。ボディ寸法は2シーターと同じで、GXFが46万円、GXPFか45.5万円の価格。


1977年10月 セルボCX-G
軽の枠拡大で大き〈なったフロンテ7-Sをぺースに作られたクーペは車名を、セルボに変えて登場した。
ボディは3190x1395x1210mmとひとまわり大きくなったが、エンジンは53年排ガス規制クりアのため539cc/28PS/5.3kgmに変更されていた。

●エピソード
軽初の2シータークーペ
 ホンダZにより口火が切られた軽のスペシャルティ分野に対向馬として投入されたのがフロンテクーペ。軽自動車初の2シーターはスポーティユースに的を絞り、後席スペースを配慮しなかった割り切りの良さが特徴だった。
当初は2シーターのみだったが、72年2月、2+2のGXFを追加。その後、5月にラインアップされた2+2の豪華版GXCFは熱線入りリアウインドー、前輪ディスクブレーキなどを装備し、人気を呼んだ。
全高1200mmの低重心スタイル
 当時の軽自動車は全長3m、全幅13mの粋を越えてはならなかったため、スタイルをスポーティにするには高さを抑えるしかなかった。フロンテクーペは2シーターで居住性を重視しなかったために1200mm(GERは1190mm)という軽自動車では最も低い車高を達成した。
ちなみにホンダZ、ミニカスキッパーは1275mm、最も近い数値のフェローMAXハードトップでさえ1255mmと50mm以上の差が生じていたのである。

●海 外
スズキSC100の呼称で輸出されていたセルボ。エンジンは4ストロークのS0HC直列4気筒を搭載し、970ccの排気量から47PS/8.47kgmのパワー/トルクを発生した。
”The low-slung sharp styling is impressive.”のキャッチが使われた。

●カタログ
「2SEATER C○UPE FOR‐L0VERS」”ふたりだけのクーペ”を前面的に売りだしたフロンテクーぺ

●当時のインプレッション

2サイクル3気筒エンジンをリアに押し込んだフロンテクーペは、本格派のミニ・スポーツだった。
エンジンは7700回転のイエローゾーンまでスムーズに吹き上がる。低回転域ではパンチ力に欠けるが、4000回転以上をキープしておけば、上縁スポーティカーを軽くカモることすら可能だ。
ハンドリングはシャープで、アクセルワークによって気持ちよくノーズの向きを変えることができる。スポーティなドラポジなど、走りの楽しさは格別だ。

●広 告

あなたと、とっておきの「あのひと」だけに乗っていただきたいフロンテクーペ。魅力の2シーターのデビューです。
と謳った2シータークーペ。
モーターマガジン誌71年12月号の1ページ。
2シーターに遅れること6ヶ月の72年3月に発売された2+2シーター。
「待望の」というキャッチだったか、リアシートは子供がようやく座れる程度のスペースしかなかった。
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